2016年2月23日火曜日

【重要】吃音と発達障害の併存について日本音声言語医学会の学会誌より紹介


吃音と俗にいう発達障害の併発事例の研究事例を紹介
本邦において、一般に言われる発達障害と吃音の併存を扱う研究はとても少ないので
今回これを発表した専門職のみなさんに心から感謝をする。ありがとうございます。



俗にいう発達障害とは自閉症スペクトラム障害、注意欠如多動性障害、学習障害、チック・トゥレット症候群である。
http://www.gov-online.go.jp/featured/201104/contents/rikai.html

日本音声言語医学会の学会誌 Vol.57 No.1,2016.1
に『吃音に併存する発達障害・精神神経疾患に関する検討 Developmental Disability and Psychiatric Conditions in 39 Patients with Stuttering 』が掲載された。
富里 周太  大石 直樹  浅野 和海  渡部 桂弘  小川 郁


要約では
吃音は社交不安障害などの精神神経疾患や発達障害が併存しうることは指摘されているが、
これらの併存疾患に関する本邦からの報告はいまだ少数である。そのため、本邦における吃音
と併存疾患の関連を検討することを目的に、2012年と2013年に慶應義塾耳鼻咽喉科を受診し
吃音と診断された39症例について、併存する精神神経疾患および発達障害の有無を調べ、
性別、年齢、発吃年齢、吃音頻度との関連を後方視的に調査した。

併存する精神神経疾患として、気分障害(うつ、適応障害)、強迫神経症、てんかん、
頚性チックの合併を15%に認めた。発達障害の併存は疑い例や言語発達障害のみの
症例を含め18%に見られた。発達障害の有無によって吃音頻度、性別、年齢に有意差
は見られなかったが、発吃年齢は発達障害併存で有意に高い結果だった。
吃音は発達障害が併存することにより、発達障害を併存しない吃音とは異なった
臨床経過を示す可能性が示唆された。









この研究は後方視的に、吃音と診断されたあとの吃音当事者に発達障害やその他の精神神経疾患があるかどうかを調べたとのこと。

要点は「吃音を主訴として病院に訪れた者」であること。それを後から調べなおしたということだ。

この検討では

発達障害,言語発達障害の併存例は,疑い例を含め
て18%の併存率であった.Bouletら1)の報告では吃
音児の50.9%に発達障害が併存していた。しかしなが
ら,同報告は発達障害や神経疾患を専門としている病
院からの報告であり,併存率が高くなるような選択バ
イアスが掛かっているものと考えられる。
一方、本検討のデータも大学病院におけるデータであり,一般的
に重症例が受診する傾向がある大学病院における臨床
統計は,選択バイアスにより高い併存率が見られる可
能性がある。
と書かれている。
ここはどう考えればいいだろうか?

・日本特有の吃音情勢から考えると筆者は寧ろ、18%少ないだろうと思う。
そもそも日本特有の吃音文化において、『吃音は障害者ではない。病院に行ってはいけない。治そうとしてはいけない』などという主義があるので、そもそも病院に行くという選択肢が存在しない。吃音も一般に言われる発達障害を併存していても困っていなければ病院には来ない。病院に来ないということは記録されない。

・また、自治体の障害者福祉課なども、発達障害者支援法を理解していないため、吃音が発達障害であり病院で診療できること理解していない。一生に一度の「本当は生きたい!働きたい!助けてよ!!」というSOSを最後の勇気を振り絞って役所に相談に行ってもそこで人生が詰むのである。そのため吃音当事者団体よりも一般に言われる発達障害者当事者団体やひきこもりの会のほうに、隠れ吃音者が存在する。こちらを考えれば18%以上になると思う。

吃音当事者でも未診断である(吃音や発達障害があるが、困っていない。または障害者と言われるのが嫌だなどの理由)が、明らかにASDやADHDやLDを併存していると思われる当事者が存在する。※『吃音は病気じゃない。吃音は障害者じゃない』という、とても強いこだわりも発達障害の症状の1つであろうと考える。 一般に言われる発達障害者も生まれ育った環境が「障害者を見下す、障害者を可哀想だと思う、障害者は劣っている」という環境で成長すると、その当事者が、なんと自分自身が発達障害者だったと告知されたときに精神的ダメージを負う事例と同様である。

これだけ日本国特有の吃音情勢・吃音文化があれば、併存はもっと多いだろう。

・吃音や一般に言われる発達障害が1次障害として、外在化障害(発達障害→反抗挑戦性障害→素行障害→反社会性パーソナリティ障害)の進行がおこる。内在化障害(発達障害→受動攻撃的反抗不安障害・気分障害→境界性・回避性・依存性・受動攻撃性パーソナリティ障害)の進行がおこる。

吃音者でも外在化障害、内在化障害が、その人の生まれ育った環境によって発生する場合がある。攻撃的な吃音者、極度に内向きな吃音者、出来る限り回避する、タバコ依存、ギャンブル依存、アルコール依存、性行為依存、他人を試す行為を行う吃音者は存在する。一方で安心安全な場所で生まれ育った吃音者もいる。このあたりも専門職のみなさんには調査研究してほしい。


・今後は、発達障害の診療において、吃音があるかどうかを、発達障害に力を入れている医師が診療診察段階でチェックするようになれば。この検討の併存18%は越えるだろうと筆者は考える。

吃音を主訴として病院に行けば、それは吃音を注目される。
一般に言われる発達障害を主訴にして病院に行けば、それは一般に言われる発達障害を注目される。

問題なのは日本国内の吃音は障害者じゃない。身体障害である。耳鼻咽喉科医師がメインで診療していた。という『空気感のもとに』構築された診療診察システムの問題であり、本来は併存していたが見落とされていたとのでは?ということである。耳鼻咽喉科、精神科医に関係なく、 自閉症スペクトラム障害、注意欠如多動性障害、限局性学習障害、読み書き障害、チック、トゥレット、吃音、不器用等の発達障害の特性に関する早期発見のためのアセスメント手法が普及することが急務である。

幼少期に発達障害を早期発見されて、安心安全な場所で親御さんも色々な支援メニューを選択できる状態になっていないと、親御さんは疲弊する、子どもも外在化障害や内在化障害で苦しむかもしれない。しなくても良い嫌な経験をする吃音者がこれからも出続ける。北海道の吃音看護師さんのような悲しいことが起こるだろうと思う…。


今回の検討結果を発表した専門職のみなさんには、ぜひ、発達障害の専門医とも協力して、発達障害者の中に吃音者がいないのか?という逆パターンを調査してほしい。

3 件のコメント:

  1. 先に誤植を指摘します。
    筆頭著者は ×宮里 周太 →○富里 周太 です。

    >本検討のデータも大学病院におけるデータであり,一般的に重症例が受診する傾向がある大学病院における臨床統計は,選択バイアスにより高い併存率が見られる可能性がある。

    発達障害はどの病院でも診療できるものではないので、大学病院のような施設に集まる傾向があるかと思います。おそらく一般病院で同様の検討をすると、合併率はもう少し低めにでるだろう、というのが著者の意図かと思います。
    受診する、しないにかかわらず吃音者全体ならどうなるんでしょうね。個人的な印象としては18%という数字はいいところかなと思いますが、いかがでしょうか。

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    1. 修正しました。ありがとうございます。

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    2. なお最近の記事でもあったように、吃音外来を開設した日本鋼管病院の先生と同一人物のようです。

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